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別府市の就労支援事業所「SIC」 出張洗車で障がい者の「高工賃化」定着へ

洗車作業をする杉本さん

洗車作業をする杉本さん

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 障がい者の就労継続支援B型事業所「SIC合同会社」(別府市石垣西、TEL 0977-76-8930)が本格的に始動して1カ月がたった。出張洗車や家具清掃といった社外作業を軸に、自立につながる高工賃(賃金)化モデルの定着を目指す動きが加速している。

依頼主の自宅などで行う「まごころ洗車」

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 代表の杉本孝生さん(38)が今年2月に立ち上げた福祉事業所。通所型で雇用契約を結ばない就労継続支援B型として10月1日に指定を受けた。出張洗車事業のほか、家具店内の展示商品清掃、別荘の敷地清掃、ポスティング、物品の配送請負など、主に屋外で人との触れ合いがあり、高収入が見込める作業を手掛けている。社員は杉本さんを含めて4人。通所している障がい者は11月6日現在1人だが、月内に2人が新たに登録する見込み。

 杉本さんは福岡市出身。自身も消化器系に障がいを抱えて生まれてきた。「手術したことで普通の生活は送れているが、食事の量や時間に気を付けないと、おなかが壊れてとんでもないことになる」と笑いながら話す。元は営業マンだったが自然と福祉の道を選択。別府の訪問介護事業の会社で経験を積み、退社して立ち上げたデイサービス会社が軌道に乗ったところで人に譲り、新会社を設立した。家の中での訪問介護、障がい者を受け入れる通所、さらには屋外で働く作業と、障がい者をサポートする形を変えてきた。

 同社では障がい者の自立を図る目的で「高工賃」の実現に注力している。就労継続支援B型の工賃は、雇用契約に基づいて働く就労継続支援A型の2~3割。2016年度の月額工賃は全国平均で1万5,295円、大分県は1万6,823円。「別府に至ってはさらに低い。まずはここから変えていきたい」と杉本さんは言う。

 「見落としがない作業を心掛けている」。統合失調症の「なる君」は額に汗を浮かべて洗車作業に取り組む。29歳で2児の父。子どもたちは里親に預けている。月1回会いに行くのが楽しみで「いつか一緒に住むことが夢」と話す。

 杉本さんの元へは紹介を受けて通うようになった。「前の職場は仕事量は多かったが工賃は少なかった。自分の言うこともあまり聞いてくれなかった」と振り返る。SICに来てさまざまな作業をこなすようになり、工賃は月額約5万円に跳ね上がった。「子どもたちに会うときにお土産を買ってあげられるようになった」と笑顔を見せる。「個人にもよるが障害年金や生活保護などを加えれば十分に生活できる額。彼の夢をかなえてあげたい」と杉本さん。

 高工賃を生み出す仕組みの一つに「まごころ洗車隊」がある。障がい者の自立を支援するフュージョン(長崎県佐世保市)が全国展開している独自事業。スタッフと障がい者が依頼者の自宅などに足を運んで作業に当たる。同社が開発した洗剤で汚れを浮かび上がらせた後に拭き取る。1台当たりの所要時間は20分~30分。中村耕司社長は「使う水も少なく、場所も取らない。ワックスやトリートメントの効果もある」と言う。

 SICでは8月から洗車事業を展開。初回は定価の半額以下(小型車500円~)という設定で始めたところ、これまでに120人から延べ200回以上の依頼があった。仕事内容と価格からリピーターも増えているが、現在は働き手が少なく、需要に供給が追い付いていない。「しばらくは赤字続きだが、障がい者登録が増えることで事業が回転する収益モデルを練り上げている」

 「なる君」もすでに60台近くを磨き上げており、立派な戦力となっている。「依頼者から直接『ありがとう』と声を掛けられると、役立っているという充実感を味わえるし、やりがいにもなる。目の輝きも変わる」と杉本さん。

 SICでは見学、体験、相談などを随時受け付けている。杉本さんは「目的は、来てくれた子たちを『一般就労』へ送り出すこと。多種多様な作業を準備しているので合う仕事が1つはあると思う。金銭面や人間関係で苦悩している本人、就労できそうな子を知っている関係者、子どもの将来を考えているお父さんやお母さんたちといろいろ話ができれば」と連絡を待っている。

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