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臼杵市・後藤テントの夏子さん84歳に 帆布生地縫製「これまでも、これからも」

笑顔で作業場に立つ後藤夏子さん(後藤テントで)

笑顔で作業場に立つ後藤夏子さん(後藤テントで)

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 臼杵市の「後藤テント」(臼杵市唐人町、TEL 0972-62-3158)の後藤夏子さんが8月25日、84歳の誕生日を迎えた。帆布(キャンバス)生地などの縫製職人として65年にわたって作業場に立つ先代の妻で、孫で専務の達朗さん(36)によると「この年の女性の現役は聞いたことがない」という珍しさ。夏子さんは「一日一日の積み重ね。これまでも、これからも」と変わらぬ姿勢でミシンを踏んでいる。

84歳を迎えた後藤夏子さん

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 1936(昭和11)年に同市で生まれた。19歳で2代目の繁太さん(故人)と結婚。現社長の憲一郎さんと次男を産み、家庭を築いた。職人の一人としてもミシン縫製などの作業に当たり、家族や従業員と共に100年以上続くのれんを守ってきた。夏子さんは「好き、嫌いではなく、嫁いだ先の仕事なのでとにかく夢中でやってきた」と振り返る。

 同社は1918(大正7)年に創業。主に、船舶用品向けのカバー製作、車のシート張り替え、店舗や商業施設などでのテント設置などを手掛けている。業務の多くがオーダーメードで、お遍路さん用の白い防水リュックサック、作業員用の防水ウエストポーチといった注文などもあるという。

 そういった「一点もの」については夏子さんが進んで担当する。完成形と使い勝手を想定して型を起こし、分厚い生地を裁断して縫製する。現在は新聞配達用の籠に防水シートを取り付ける注文を受けており、新聞の量に応じて高さを変えられるようにしたり、開け閉めを簡単にするためにマジックテープを取り付けたりと、独自の工夫を加えている。

 従業員の育成やマネジメントにも気を配ってきた。一連の作業を全てこなせるように指導し、一人一人をオールラウンダーに育てた。それぞれの話や意見も丁寧に聞き、作業場がうまく回転するように調整した。勤続20年を超える亀井成子さん(55)は「いろいろ教わってきた。周囲への気配りは本当にすごい」と話す。

 これまでに大病の経験はない。8時に階下の作業場に下り、17時まで従業員と共に業務をこなすのが日課。「みんなと同じ空間で仕事をしたりおやつを食べたりするのが楽しい」と話す。達朗さんには「同業仲間に聞いても、祖母のような人が現場に立っているところはない。完全に仕事が趣味」とからかわれるが、休日には積極的に外出し、友人らとランチを楽しむという。

 誕生日を迎え、年を1つ加えた。「特に振り返ったことはないが、毎日が楽しい」と笑顔を見せた上で「先代(繁太さん)も83歳まで現役だったから」とぽつり。亡き夫への思いを寄せつつ、きょうも作業場に立つ。

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