大分市の老舗食堂「美味なかよし」(大分市東春日町、TEL 097-534-2234)が、約2カ月の休業期間を経て12月1日に営業を再開する。
仲真さん(84)と妻の恵美子さん(77)が42年前に創業した同店。「今や9割が注文する」というジューシーな鶏もも肉の天ぷらに酸味と辛みが効いたタレをかけて提供する鳥天が、インターネットの飲食店検索サイトで高評価を受けるなど、昼食時に行列ができる人気店として通っている。
約2カ月間の休業となったのは、恵美子さんが10月6日に転倒して腰椎を骨折し、救急車で運ばれたことが理由。「それはもう、痛いなんてもんじゃなかった」と恵美子さん。店舗の切り盛りを担う長女の荒金美香さん(44)は「寝たきりという言葉が頭をよぎり、私の方がおろおろして落ち込んだ」。真さんも「骨密度が極端に低かったのも骨折の原因の一つ。日光に当たらない仕事を40年以上も続けていたから」と振り返る。
初めは家族に動揺が広がったが、2男1女を生み育て、今なお調理場で奮闘する恵美子さんの芯は強かった。10月16日に手術が決まると「治るのが分かると思うと、うれしくて手術が楽しみになった」と気持ちはすでに前へ。「引退なんてこれっぽっちも考えなかった」という。
骨をセメントで固める手術が成功すると翌日からすぐにリハビリ開始。歩行器訓練、トイレに一人で行く練習、足腰の屈伸などを繰り返した。「早く包丁を握りたい、お客さんの顔を見たい」と1日3時間のリハビリに熱心に取り組んだ結果、11月13日に無事退院。「年内は病院にいるはずだった。年齢からしても驚異的な回復力だったらしく、先生も驚いていた。何くそ(根性)で生きてきた母らしい」と美香さんは笑顔を見せる。
約2カ月弱でのスピード復活となったが、これまで定休日以外の長期休業はほとんどなく、「しばらく休みます」の紙を貼っていただけだったこともあり、常連客をはじめ観光客などからも問い合わせが相次いだ。「店を閉めてしばらくすると、毎日、4~5本の電話がじゃんじゃん鳴るようになった」と真さん。さらに、骨折と入院の情報が伝わり始めると、「毎日買い物に行っていた店の従業員がお見舞いに来てくれた」(恵美子さん)。今回の件で、3人は店と自分たちが客に愛されていることを痛感したという。
リハビリ中に調理場での腰に負担のかからない動き方などを学んだこともあり、前よりも姿勢がよくなり、動きに無駄がなくなったという。リハビリを兼ねた家族への食事作りも数を重ね、11月28日の退院後初の検査では医者から「店に立ってよし」との許可が出て、創業以来の味を提供する準備が整った。
29日は、体力の回復度合いの確認を見るために試験的に開店。11時30分にのれんを出すと、次々と客が入り始め、12時すぎには列ができるほどになった。市内の30代の女性会社員は、急きょ開店の報を耳に、昼休みに入ると同時に駆け付けたという。店舗近くに会社があるという目黒達哉さん(53)は、福岡から訪れた際は必ず利用する常連。「母さんが救急車で運ばれるところも見た。大分に来るたび、会社の窓からのれんが出ているかどうかを確認していた」と話す。
会計時には客が代わる代わる「ごちそうさま。いつもどおりの味だった」と声を掛ける。恵美子さんは「お客さんの言葉は本当にうれしいし、ありがたい」と感謝の思いを口にし、「孫が社会人になるぐらいまで、最低でもあと4、5年はお客さんの前に立っていたい」と意気込む。
席数はカウンター5席、テーブル4卓で計21席。メニューは鳥天定食と日替わり(以上700円)の2種類。
営業時間は11時30分~14時。土曜・日曜・祝日定休。