大分市で「伝説の佐伯ラーメン」を提供する「上海」(大分市旦野原、TEL 097-568-2699)が8月24日、半年ぶりに店を再開した。
佐伯ラーメンはしょうゆとんこつのスープ、中太麺などを柱とする佐伯市に根付く地域食。シンプルでありながら力強い味わいが受け、近年、全国的にその名が広がっている。中でも上海(2004年閉店)は、癖の強いスープと柔らかい麺を支持する熱烈ファンが多く、1日に600食が出るほどの人気店だった。
大分市の「上海」は、古戎浜喜(こえびす・はまき)さん(62)がそれまで営んでいた食堂を変える形で2016年に開店。本家の味を受け継ぐ店として愛されてきたが、不自由な足腰を酷使しすぎて調理場に立てなくなり、今年2月に閉店していた。
今回、再開店したのは次男の喜紀(きよし)さん(34)。大分市の企業に勤めていたが、「自分で考えて作り人に分かつ、という1次生産者のような仕事への憧れ」、父が開いた店のベクトル、子どもの頃から味わってきた上海ラーメンへの思いなどから再開を決意。過去にラーメン店や中華料理店で働いていた経験もあり、2度目の復活にこぎ着けた。
白いスプレー塗料で書いた「上海」の文字など店構えは変わっていないが、音楽を流し、壁に絵を飾り、店内を明るい雰囲気へと変えた。テーブル、カウンター合わせて17席と席数も増やした。オープンして1週間だが「上海ファン」ほか客足は上々で、「提供するのに精いっぱい」という盛況ぶり。定番は上海ラーメン(550円)で、ローストしたロース肉をのせたチャーシュー麺(800円)も人気。大盛りや替え玉(200円)もよく出るという。
秘伝のレシピは本家直伝。経営者夫妻と幼年期からの付き合いがあった浜喜さんが受け継いだ。調理場に自由に出入りできる間柄で、数十食分のスープと生麺も持ち帰っては喜紀さんらと家で味わう「上海生活」を長く続けてきた。「材料から作り方まで目に見えるもの全て聞いて教わった。レシピを託されたからには上海の味を残していくしかないと考えていた」と振り返る。
スープ作りについて「他では使っていない部位を入れるし、作り方も他の店とは違う」と浜喜さん。喜紀さんは浜喜さんが目と舌で覚えていたレシピを全て聞き出し、数値化することに成功。安定した一杯を提供できるようになった。それでも「きっちり作ったスープも気温や湿度で味が変わる。父は一目見るだけで『これはしょうゆが足らん』と調整することができる」と言う。
本場の味に限りなく近づいているが、2人とも「まだ特徴の臭みが足りない」と声をそろえる。喜紀さんは「本家は同じ釜でスープをずっと継ぎ足して作っていたので、やはり歴史の部分かもしれない」と推測する。ほかにも本家では自家製の手打ち麺を使っていた点が異なるという。
「父や自分やお客さんが食べていたラーメンのゴールは分かっていて、素材と作り方も分かっているのにたどり着けない」と苦笑いしつつ、「ただ、上海を知らないお客さんは『おいしい』『好きな味』、上海を知っているおじさんたちは『本家はもっと臭かったが、これはこれで新時代の上海』と言ってくれるので一つの形にはなっていると思う」と喜紀さん。
今後、スープの研究や麺の変更などを経てさらに「上海」の味を追求していく。喜紀さんは「理想は本家と同じ『くっさいラーメン』だが、今この時の一杯もぜひ味わってほしい」と来店を呼び掛ける。
営業時間は11時~14時、19時~24時。駐車場は店前に3台分あり。