JR別府駅の高架下にある「べっぷ駅市場」の総菜店「山上商店」(別府市秋葉町9、TEL 0977-24-2710)が5月30日に閉店する。地域に愛され、50年以上にわたって「おふくろの味」を作り続けてきた名店が惜しまれながらのれんを下ろす。
山上博さん(85)と妻のハル子さん(82)が1968(昭和43)年にかまぼこの卸店として開業。時代の移り変わりに合わせて業態を総菜店へと変え、長きにわたって地域住民の食卓を支えてきた。当時の市場は「別府のアメ横」と呼ばれるほどの活況続きで、連日大勢の市民らでにぎわったという。
山上商店は、25店が軒を連ねる市場の南端にある。夫婦は毎朝3時に起き、仕込みに入る。開業当初から「鮮度の良い素材を使う」「化学調味料は使わない」といった信念を変えず、人気のおはぎで使う小豆も時間をかけて炊き上げる。おかずは高野豆腐、シイタケの煮付け、ポテトサラダなど20種類以上。100円、150円という値付けで店先に並べている。
半世紀にわたって二人三脚で切り盛りしてきたが、5月に入って博さんが体調を崩したことを機に閉店を決めた。「1人で店を続けるのは難しい」とハル子さん。「仕事で苦労を感じたことはない。まだ続けたい気持ちはあるんだけど」と寂しそうに笑う。
「閉店のご案内」と書いた紙を保冷ケースのふたに張り、おかずのコーナーに立て掛けた。閉店の知らせを聞いて駆け付けた客の中には涙を流す人もおり、会話が重なるとハル子さんももらい泣きするという。
5月20日も常連客が続々と来店。「ここに買い物に来て立ち話をするのが楽しみだった」「年末に山上さんの田作りが食べられないのは残念」「最後にもう一度、やせうま(大分郷土料理)を食べたい」など閉店を惜しむ声が上がった。ハル子さんはそれぞれの思いを受け止めながら「長い間、本当にありがとう」と笑顔で応えた。
夫婦は夢中で働きながら4人の子どもを育て、全員、大学を卒業させた。現在は11人の孫と4人のひ孫に囲まれる。「子どもたちが健康でいてくれることが何よりもうれしい」とハル子さん。閉店後は約50年続けてきた民謡の講師として第2のステージを歩む。
営業時間は8時~19時。日曜定休。